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3月のライオン 感想 主人公 桐山零が0から取り戻していく大切なもの

 2016/10/15 テレビ学部 文学部 映画学部
この記事は約 9 分で読めます。 5,213 Views

『3月のライオン』は 2007年から『ヤングアニマル』で連載されている漫画です。

NHKで今年2016年10月8日から毎週土曜夜10時からアニメ放映開始、2017年4月実写で映画化されることになりました。

(10月15日(土)午後5時5分〜NHK総合テレビにて「3月のライオン」第1話の再放送 翌週以降は不明)

家族を全員交通事故で失った主人公が、父親の将棋仲間の棋士の家の内弟子(生活を共にする弟子)となり、その将棋の強さが絶対の家庭で自分が一番出来の良い子供となったことで、その家庭の実子と軋轢が生まれ、主人公 桐山零は高校生の年齢で一人暮しを始めています。 話のはじめでは、学校にも通わず、友達も家族もいなく、将棋の戦績も思わしくなく、カーテンも荷物もないガランとした部屋で、心の中まで空虚な感じが投影された描写でスタートします。

孤独、空虚さ、そこから抜け出す意思すら失っている主人公

強く印象に残る物語の始まりです。漫画でもアニメで、とっても静かに、セリフもなく、絵の表現で彼がどれだけ空虚で孤独かを伝えてきます。

この漫画家の作者の羽海野チカの企みが見事なのは、これからこの主人公が取り戻していくものを、全く持っていない、それと完全に対照的なところから物語をスタートしていることです。

それは、単純に何かがあって、何かがないと、物の有り無しで表現されるものではなく、むしろ、色と音がこの無色透明で音すら感じられないような主人公の生活に取り戻されていくことのありがたさを演出できる始まりなのです。

例えば、大家族でにぎやかに生活している人は、彼のような生活している他人の気持ちを実感するように想像することは無理でしょう。彼は、先輩棋士に誘われるまま泥酔しているところを、親切な女性(川本あかり)に自宅まで連れいいってもらい介抱してもらったことから、この女性を長女とする3姉妹の家に頻繁に来て、深く関わっていくようになります。

その3人姉妹が実に感情豊かで、ダイエットしなきゃと思いながら、食べ過ぎて、苦しがってみたり、零が買っていったお菓子のお土産に、無茶苦茶大げさに喜んだりしてくれます。零の生活に、急に、色の付いた感情を、一気に流し込んできてくれます。最初は、行くのを遠慮していたような、人付き合いに苦手感の強い、零がこの3人姉妹との交流を通じて、感情、心、居場所、人間関係を少しずつ、確実に取り戻していく過程が丁寧に描かれていきます。

それが丁寧で、温かみがを感じられるように描かれていきます。そして、現在それが不足していると感じている人が多いから、この作品のファンになる人が多いのだと思われます。

作者の羽海野チカは孤独の雰囲気、色、その辛さ、そこから抜け出す大切さを知っている。

2016年現在人気のある漫画、映画、小説にはやはり、2016年の人間が何に痛みを感じ、何を渇望しているかが、鮮明に反映されています。

最近の将棋ブームの一因には、棋士という、個人で自分の実力を競ってそれで食っていく仕事が、組織に頼らず、自分の力で生きていきたいという人間にあこがれをいだがかせる存在であること。

また同時に、個人の成果のみを競わされる世界の人間の孤独感への親近感と共感、同情まで感じる人が多くなっているのかと思われます。

自分が表現したいことを、どのように俯瞰して表現することで、より伝わるようになるかを、物語の出だしから、主人公の孤独、育ての親に将棋で勝ってしまい、素手で殴ってしまったような感じに本人がおののいているところ、そこから、温かい3姉妹の家に、強引に誘われて食事を共にして、ホッとして、礼儀正しすぎるほどの主人公が、その家で眠ってしまい、次女の”川本ひなた”がメガネをとって上げると、眠ったまま泣いていることに気がついて、この感情を見せない礼儀正しい、主人公”桐山零”が抱えたまま表に出すまいとしている心の辛さに気がつくところ。

全部ネットで読める一話の中に詰め込まれていて(この文がリンク先です)

表現者としてすごいなあと、つくづく感心させられます。

将棋漫画でもあって、将棋は、棋士 先崎学が監修し、将棋について、棋士の生活、詰将棋、様々な子をと漫画の中の、コーナーで巧みに紹介し(彼は何冊も本も出していて、名文家でもあります。)ています。また漫画の中で、欲しい将棋の形勢の局面を、羽海野チカさんにアドバイスもしているとのことで、漫画の中の盤面は、ストーリーにあったガチンコのモノです。

中に、病弱で、まん丸顔という点では、ある程度ですが、

『聖の青春』の村山聖 (先崎学の親友でした。リンク先に感動の話があります。)

の要素もモデルとして取り入れている二海堂晴信(にかいどう はるのぶ)も登場します。

まだまだ書きたいことがありますが、今日はここまでにしておきます。

孤独のままであきらめないで、色の付いた楽しい感情にあふれた世界を取り戻そうという漫画なのです。

3月のライオンは超草食系漫画なのか?それが今の漫画なのか?

3月のライオンの中では、3姉妹と、主人公の暖かい交流が深まり、

3姉妹と、主人公の4人で仲良く、眠るシーンもありました。そして、主人公は昔の家族がいた頃のような、暖かい、忘れかけていた、何とも言えない幸せを感じます。

それがとても実感わきやすいように、前後の文脈も含めて丁寧に描写されています。

それは、美しい、癒されるストーリーですが、12巻までの(2016年9月時点で少しも、かけらも、草食系以外の描写はありません(遠まわしな表現ですみません)。

これ、例えば ”聲の形” もそうでしたし、”君の名は”も せいぜいが、少女が作った口噛み酒を少年が飲んで、トリップするくらいの表現でした。

なんだか、漫画まで、全体的に草食系になってきているようです。(統計データーをもっているわけではなく、そんな感じに過ぎませんが)

今から40年くらい前の漫画では、草食でない、PTAが文句を入れそうな、シーンをいれた漫画の人気がでてきて、興奮していたような記憶があるのですが、

今は、人気のある漫画はむしろ逆で、本当に、綺麗な、清潔な、心の交流のみを描く漫画が増えてきているようです。3月のライオンはそう言う意味では典型的なそのパターンのようです。

人気漫画、人気アニメ、人気映画、 3月のライオンの場合はおそらくこの三つ全てに当てはまっていくと人気がこれからでていくと(漫画は既に人気ですが)でしょうが、2016年の現代では、草食か装飾でないかよりも、草食のまま、心温まる人と人の交流を描いた漫画のほうが受ける、そいうものを読みたい人の方が多いということのようなのです。

ただ、多少気になるのは、漫画の中で長女の 川本あかり はどことなく色っぽいタッチで描かれているので、今後の展開はわかりませんが、NHKで放映ですし、今までの展開からも過激な展開はありえないでしょうね。

これ、この作品だけでなく、人気作品が全体的に、そういう流れ、ということは、人の気持ちが時代とともにかなり変化しているということを表していると思えてなりません。

恋愛での、一体一の同世代の男女の付き合いより(だけでなく?) 性別や年代を超えて、自分の孤独感、淋しさが癒されるような人との交流を得られること、そこに草食系以外の繋がりはあまり求められてないらしいこと、逆にそちらのほうが、新鮮で切実にすらみえること。こりゃ、少子高齢化になるわけです。

追記-2016/10/19–

川本あかりがことさらにセクシーでふっくら色っぽい件

これだけ、胸の膨らみが強調されて、体全体も曲線美がふくよかに強調されているのは、単なる偶然ともおもえないので、作者の

羽海野チカの今後のストーリー展開へのたくらみ

があるのかもしれません。思えば、主人公の桐山零も、物語の最初の回りに働ける意志すら失った孤独感から、この3姉妹を救いながら、自分もさらにこの3姉妹との関係を強めるようなことをここまで積極的にやるようになるとは(12巻までで)大変身の展開でした。ここからさらに、予想の出来ない展開が待っているのかもしれません。 あるいはこの漫画があまりに清く正しく着ているので、ちょっとしたアクセントと刺激なのかもしれませんが。

 

アニメ第1話で主人公 桐山零を一番救ったシーン

義理の父親というべきか、師匠というべきかという立場の幸田に将棋で勝って、喜べずに、疲れ果てているところに夕食へのお誘いのメールがきます。

最初は3姉妹の次女 川本ひなた から。 そのメールに疲れているからと断りの返事を書き始めたところで、2通目のメーーるが、

長女の 川本あかり から、カレーライスの福神漬けを買い忘れたから買ってきてと届きます。かなり強引な内容で。もう来ることが決まっているように。

ついつい、心を閉ざしがちな主人公を強引に夕食に誘ってあげることが、この孤独になってしまいがちな彼をとても救っていることが後の流れからもわかります。

 

アニメ第2話で分かるそもそもの川本あかりと桐山零の出会い

この3月のライオンは全般的にはほとんど色っぽくない健全漫画なのですが、川本あかり は(おばさんの店とはいえ) 銀座バーで働いています。

そこでの あかり の姿は、自宅で家事に追われいる姿とは別人のようです。 そもそもの、この主人公が先輩棋士にこの あかり の勤めているバーに連れてこられて、店の前で酔いつぶれたまま放置されているのを見かねた、あかりが自宅まで連れて行って、朝まで寝かしてあげるとことが、この3姉妹と、主人公がここまで深く付き合うきっかけだったことが明かされます。 二日酔いで吐くところをあかりに喉に指突っ込んでもらって助けてもらうところ、最初から思いっきりカッコ悪いところを見られたことで、とりつくろえなくなったと主人公の独白が続きます。そうやって彼の孤独に穴が強引にも幸運にも開けられてきたことがわかります。

アニメ第3話見逃しました。

アニメ第4話 ウーム

次女のひなたが好きな同級生の弁当つくりにこだわりすぎて、材料代もかかって大変で、結局渡せず、もってかえって食べたら、まずかったという話なのですが、料理慣れてないところで、難しいことやるとしっぱいするからかと あかりが注意していて、昔あかりも亡くなった母親に同じことを言われて、同じ心配を妹にしている。ホッコリという話。

あと、二階堂(村山聖をモデルにしているといわれているがかなり違う。似ているのは病気でまん丸なとこだけか)が川本家にきてご馳走になるけど、あかりがともかくデブ好き、食べさせてさらに太らせるのが好きだというのがここでも強調されてました。

それで、このストーリーは他愛なくても、家族も、学校も、人付き合いも失ったがこれらのエピソードに接しながら、心が温まっていくところが一番のポイントらしいです。ただ心温まるところだけ抜き取ると、まるで現代版サザエさんかなという感じすらします。

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