書評: 『日本の生き筋』を読んで”自分の生き筋”まで
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著者:北野幸伯さんは『ロシア政治経済ジャーナル』という有名なメルマガの発行者です。
このメルマガでの分析が素晴らしく、実際予想が当たるので、私は北野さんの著書は全部読んでいます。
今月(2018年12月)新刊の
『日本の生き筋』
が出版されたので、早速書評を書きます。
本の理解を助ける前提知識
北野さんは1970年生まれの48歳で28年間モスクワに住まれ、ロシア人の女性と結婚され、お子さんが2人います。
これを知っておくことが、この本の理解に役立ちます。
北野さんは海外経験が長いことで、日本を客観的に見ることができ、日本の中にいるだけでは気づけない日本の良さを理解し、
普通の日本人より、愛国心が高い方であろうことが、この本や今までの出版物、メルマガからも想像されます。
また、情報源を日本以外にも広く持ち、それを公平に分析で来ることで、普通の日本人より確度が高い予想ができる方です。
まえがき 日本は幸せな国?
日本の幸福度ランキングが驚くほど低いこと。
日本人が思っているより世界の人々から日本は好かれていることを、海外で経験されたこと。
今迄はそれが、日本国内で戦後作り上げられてきた、自虐的歴史観教育により誤解をさせられてきたこと。
そこまでは今までもよくあった話で、日本はかなり幸福なのに誤解させられているということは言われてきたことです。
今回は、実際にデータをよく調べていくことで、確かに今の日本は以前ほどは良い状況ではなくなってきていることが示され、
日本の幸福度ランキングが下がっていることが、どうも自虐的歴史観のせいばかりでなく、実際に問題が拡がっているらしいこと、
でも、それに対策はあると、しめされ、本文への期待が高まるようになっています。
データとわかりやすい解説で噛んで含めるように、誤解の余地のなきように説明するところが北野さんならではの素晴らしさで それがこのまえがきの部分から早くも感じ取れます。
第一章 日本を幸せにする3つのキーワード
北野さんが介護の問題でも苦労された個人的な経験や、豊富な海外旅行の経験から、ほとんどの国はもう一度旅行したいと思うのに、2度と行きなくない国があったのはなぜか? 何度も行きたくなる国はどこで、なぜだったかが、また、わかりやすく、平明な文章で説明されていました。
わかりやすい一文を書くためには、鍛え上げられた思考力、論理力と、実際にその一文の10倍考えて抜いてから書くことが必要(私の場合ですが)なので、北野さんのわかりやすい文章の背景には貴重な経験と思考があるのであろうことがここでも想像されました。
導き出された3つのキーワードのうち一つだけここでは紹介させてもらいます。
『善良さ』
それが結局報われるものであることが、これも自然に納得できるように説明されていました。
他の二つのキーワードも重要ですので、本を買って読まれる手もいいかと思います。
感想として、インターネットの普及で言われていることの一つである。
「正直さは最大の戦略である」
に通じるものがあると思いました。正直さ、善良さは 今までも倫理観の上でも大切なことでしたが、
情報化社会になって、個人が発信して、多くの人から評価されるようになってくると一段と、
偽善や、不誠実は簡単にバレることが多くなり、バレるだけでなくネット上の炎上もしばしば起きるようになりました。
最初から、善良さを大切にすることが、戦略上も良いであろうことを、また本当にわかりやすく説明し、
他の二つのキーワードも同様にわかりやすく説明されていました。
第二章 家族大切主義と真の働き方改革
人間は価値観をもって行動しないと幸福になりにくいことが多いです。
北野さんの考えでは、戦後日本の最大の価値観は会社絶対主義
年功序列と終身雇用
により、会社に忠誠を尽くしていけば、人生は安泰で、かつ日増しに収入も地位も上がる。
2018年の今から考えるとそれは多くの会社で幻想だったことがわかるのですが、
この会社教は1990年あたりから風向きが変わってきたことが説明されています。
現在東京拘置所にいる
カルロス・ゴーン
が日産自動車という大企業で大胆なリストラをして業績を回復させたことから
他の経営者もこのリストラという名称の大量解雇への黒い誘惑に勝てず実行の火ぶたが切られたという説明がなされていました。
2018年現在、特に若者は会社に忠誠を尽くしても、会社が自分に忠誠を尽くして、安泰を保証してくれるわけないと理解しています。
当然もう会社教は成り立ちえません。
新しい価値観は、
家族主義か個人主義
になるであろうと示され、北野さんは家族主義が幸福感を高めるとして話を展開していきます。
私はこれには違う意見です。自分が離婚して子供とも離れ独り暮らししているという境遇のせいもありますが、
実際に、現代で独り暮らしが増加し続けているので、単に家族主義を復活させるということは、容易ではないと思われるからです。
私の経験からは、おそらく、他人でもいいので、身近な人(距離的にでも、ネットでコミュニケーションを密にとるような人でも)を大切にして、
できれば、自分も大切にしてもらえるような関係を作れれば、幸福感は増えると思っています。
それが、短期的なものであったとしても、その期間の幸福度は上がります。
私がAirbnbで民泊のホストを2年半やった経験からわかったのは、人間は、国籍、宗教、年代、性別が違っても、一緒に生活してみると驚くほど似た感情をもつ、共感しあえる存在であるということでした。
現時点で私がホストをしていたAirbnb東京の郊外まで来て泊るゲスト達は、一般的なサンプルではないかもしれませんが、将来的にはむしろそのサンプルの意識に、人類全体が近づいてくるのではと私には感じれれました。(データで示せないところが北野さんより弱いところですが)
おそらく、シェアリングエコノミーは、人間関係すら、一時的にシェアする経験を増やすのだと思います。それは、経験してみるとむしろ、短期的でも温かい幸せな経験を増やすと思っています。
ですから、この価値観を家族主義を大切にすること、それ自体は良いことですが、それに限定してしまう必要はなく、それより、私のようにそれへの対応が困難な個人にも身近な人との関係を大切にすることで幸福感は(ある程度かもしれませんが)向上するという表現だとより良かったという感想を持ちました。(孤独人への救いを!)
この本で指摘されている通り、今迄の社会では個人主義は利己主義に移行することが多かったので、家族主義をより優先したい趣旨は理解できましたが、どうも利己主義に陥らない、個人主義という意識の人が増えているように、私はAibnbホストの経験等からは感じています。
家族主義を大切にするために、労働時間を減らすことの重要性とその方法も、日本がその対応に遅れていることもこの章で説明されていました。
第三章 地方を復活させる方法
日本の現在最大の課題は出生率低下による人口減少です。(この本でも同じ理解です)
若い世代が地方に住むと、結果的に出生率が上昇するという現象があります。
そのためだけではないですが、地方を復活させるための具体的方法がまたわかりやすく説明されていました。
これだけ、平易にきちんと説明されると、きっとそうなんだろうと思います。
ただ、これは国や行政が行うべきことが示されていたので、一国民としてはこれらのことを理解して、選挙で正しい一票を入れることくらいしかできないのかなとも思いました。
第四章 給食革命と農業の復興
子供の心の安定と栄養に密接な関係があるであろうことが、北野さんの子供に、”ある一般的な栄養”、を与えただけで落ち着きが取り戻せた経験からも説明されています。
この章では、適切な栄養摂取の重要性と、給食のメニューの見直し、朝飯給食による育児負担の軽減等の提案が また緻密でわかりやすい分析とともになされていました。
北野さんのその思考プロセスを知ることがとても貴重に思えました。全章そうです。
第五章 少子化問題を解決する方法
日本では、日本は確実に人口が減少 ”し続け” 国が衰退する論が多いです。
確かに人口統計は、未来を予想できる確率がほとんどの経済予想よりも高いです。なぜなら、年代別人口ピラミッドをみれば、平均寿命に達する年代を数十年先までほぼ確実に予想できるからです。ピラミッドが年代をスライドしていくことはあらかじめ起きてしまった未来ともいえると私は考えています。(大災害でも起きない限り)
ところが、出生率は、日本のように減少し続けたままの国だけでなく、北野さんが長年住んでいたロシアのように、一度減少してから、国の施策により、回復した国もあります。
政策次第で未来を変えられることが示されています。他国での実例があることは、悲観論だけに染まっている人の意識も変える力があると思いました。
第六章 和ームジャパン戦略
クールジャパンに対する北野さんの造語 ワーム(温かい)をもじって 和ームジャパンとする戦略論です。
戦略上も大切にすべき国はまず、こちらから、その国を好きであることを示そう。そうすれば相手の国からも好かれるであろう。
ということなどが書かれていました。
世界は、ナショナリズム(国家主義)が2018年現在強まってきています。
トランプ大統領の アメリカファースト
を個人に起きかえて考えると、”俺様第一主義”になりますから、これでは他人から好かれないであろうことがわかりやすく説明されていました。
それでも戦略上現時点で、アメリカは最重要国なので、日本としてはアメリカが好きであるとキチンと対応する必要があることも。
僕は北野さんほど国家間の問題を考えてないので、個人間のことを、この章を読みながら夢想してしまいました。
人も、誰かを好きになる、愛情を持たないと、自分も好きなってもらえない、愛情も持ってもらえない場合がほとんどでしょう。
じゃあそうすればいいじゃないかと思っても、そうできない場合も多いのはなぜでしょう?
おそらく経験等から、まず自分を素直に好きになれない、愛せないからだと、私は考えています。
心の深いところでは、感情は対象を選べない。誰かに怒っている人は、実は自分にも怒っている。というより心の深くでは”怒り”という感情があるだけなのです。
好きという感情も、愛情を持つことも、好ましい人からの影響で持つこともあっても、それを素直に受け取れる素地が自分に必要なのだと思います。
それは、本当は難しいことではないはずだと思うのは、8歳くらいまでの子供達をみているとそれが自然にできているように見えるんですね。
だから様々経験が人の心を本来ある素直な姿から歪ませてしまっているのではないかと僕は考えています。
国家間の話からここまで感想を拡げるのは書評としては範囲を拡げすぎかもしれませんがご容赦ください。
あとがき 日本の未来は明るい
以上のことから、日本を明るい方向に持っていけるということですが、
スグにこれを信じられますか?
僕はこの本を読んで一番、未来は明るいと思わせてくれたのは、北野さんその人の言葉でした。
これだけ、日本が良くなる道を考え、それをわかりやすく説明しようとしている人がいること、
希望を持つことの大切さを、あとがきでまたしても本当にわかりやすく、肥満と糖尿病の例えまでだして説明されていること。
そのことこそが、未来は明るい。少なくとも、希望を持って生きることが大切だと信じさせてくれました。
とても爽やかな、読後感でした。
ひょっとすると ”善良さが最大の戦略” だったのかなとか、ちょっと思ったりもしたけど、爽やかさに一片の曇りも出ませんでした。
北野さんのロシア政治経済ジャーナル(RPE)にこの記事掲載される
この記事の前半部分は北野さんのメルマガで紹介してもらっていました。
https://www.mag2.com/m/0000012950.html
上のページにメルマガ登録フォームもあります。
私が唯一10年以上読み続けているメルマガです!!
追記
北野さんの初期の著作の
『ボロボロになった覇権国家』は予言書だった。
を2018年現在、見返すと。これを2005年時点で言い切っている、彼の眼識の確かさに驚かされます。
リーマンショック 2008年以降なら、まだわかります。サブライムローン2007年で気づいた人もいたかもしれません。
でも2005年時点はまだアメリカが元気と思われていた時期なので、この本の価値は高いです。同時に当時、それを理解して買ってくれる人が少なかったのではとすら思うほど。
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ほんとに北野先生は、「日本の宝」だと思います。北野先生のおかげで、ネット上の情報に振り回されずに済んでいます。
同意見です。北野さんの本を知る人が増えればという思いと、自分の意見をきちんと対峙させるべきところは対峙させて、真剣に書かせてもらいました。
初めまして。
家族第一の主張は、相手があることで。ご指摘のとうり、個人の様々なパターン
の展開に着地、もしくは収斂せざるを得ないのは自明。 札幌 中央区 板垣 恵一