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君の膵臓をたべたい:小説と映画の感想 あらすじ、名言、内容の変更点

 2017/07/29 文学部 映画学部
この記事は約 8 分で読めます。 10,040 Views

Contents

2017・7.29 映画感想追記——————–

映画版を見ました。感想と小説との相違を追記します。

あらすじ 小説と映画の相違点

映画では彼女がなくなってから、12年後の場面から過去の出来事を思い出す形で話が進んでいます。

そのため映画では、主要登場人物に、高校生と30歳前後の二人の配役がなされています。

12年後に意外な二人が結婚することになっていました。

名言 小説と映画の相違点

小説での「生きるということは心を通わすこと」 の後半をもっと長くして、

「まどろっこしくても鬱陶しくとも」人と関わることということを含めて話を伸ばしています。

冗長ですが、わかりやすく、実際に当てはめてより想像しやすい説明になっていました。

内容 小説と映画の相違点

あらすじの相違点と重なりますが、時間の視点を変えて12年後の視点からの追加部分が変更点です。

高校生時点では内容は小説にかなり忠実でした。

 

感想 小説と映画の相違点

上記のあらすじ、内容の追加はありますが、感想は小説に近く、普通に生きることが

とてもありがたく貴重なものであることを、感じさせてくれるものでした。

映画が全く小説の出来栄えに負けていません。

 

特にヒロインの山内桜良役の浜辺美波(16歳)が、目元と頬までに憂いと、

残された時間を精いっぱい生き生きと生きようとする心とを同時に表情にだせていて、

この小説にさらにリアリティーを与えてくれていました。

 

印象的だった点

「君の膵臓を食べたい」とは自分の好きな人の中で自分の心が生き続けてほしいと渇望する思いを

最も強く、直接的に伝えるために作り出された、本人たちにしか通じない言葉であること。

 

例えば面倒でも、他者との関わり合いの中にこそ生きる意味があることを、一生懸命、生死をかけて伝えている点。

 

きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ」という美しい表現が映画では

冗長な言葉に置き換えられながらも、よりわかりやす鋳物になていた点

 

極めて個人的な感想の追加

私はこの映画を、離婚してから、たまにしか会わない次女と一緒に観ました。

横の席で次女が何度もハンカチで涙を拭いて、涙をすすっている音を聴いて、

次女が、こういう世界に感動できる人間に育ってくれていることをとてもうれしく思っていました。

 

君の膵臓をたべたいロングセラーベストセラーについて

この小説は発売から一年以上経った今も多くの本屋で売り上げベスト10に入っています。

なんでそこまで人気があって続いているのでしょう?

あらすじは、ヒロインが病気で余命が短いという設定で、同様の設定の小説は多くあるので、それだけを理由にはできません。

読みやすくて、かつ内容も納得できるくらい深いので、最後まで読めるし、読後の満足感があります。でもそれだけじゃ説明つきません。

主人公が自分の頭の中を言葉にしてそれが大半を占める小説です。(小説のほとんどを一人称で進めています。)

主人公が孤独で孤独感のある読者がそれに共感、感情移入して読み進める形式がとても上手くできています。しかもヒロインの彼女との会話がお互いの気持が言葉に新鮮に機知に富んで表現されていて、気持よく読めました。この二つの小説を連想しました。読みやすくて、主人公とヒロインの会話がしゃれていて。

ノルウェーの森 村上春樹

春一番が吹くまで 川西蘭(入手困難だけど、文体が似ていたような)

それと、地味で根暗で友人がずっといない主人公にここまで強引に割り込んで人間観関係を作ってくれる魅力的な女の子というのが、夢を与えてくれるのが大きいと思います。実際にはそんなことないけど、それを憧れている男は多いから、憧れのファンタジーとして、また今まで心を開けずに孤独だった自分を変えてくれる存在の出現という驚きの物語として。

タイトルの意味が純愛の極限に変換する

タイトル見て、どうせ猟奇的な奇を衒った小説だろう、でも気になるなと手にとって、本屋でチラッと見ると、むしろ全然逆の小説らしいと気になり、結局買ってしまい、最後まで読むと、このタイトルに特別な意味があることがわかり納得させられる。

これもこの本が売れる流れの一つだと思います。私はそうでした。文章がサラッと読みやすくて美しくて、この年代ならではの機知に富んでいて、タイトルとのギャップが大きく、かつラストで、恋人以上の心の交流を果たした2人にとって、このタイトルの言葉の意味が特別であったことがわかるのです。

一番好きだった言葉 生きるってのは

主人公「君にとって、生きるっていうのは、どういうこと?

ヒロイン「生きるってのはね」

ヒロイン「きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ」

私にはこの言葉がこの小説の中心、主題になっているように感じられました。

社交的で、明るくて、人から好かれているヒロイン。

地味で暗くて、友人がいたことがない主人公。主人公はこの言葉を聴いてから、ヒロインの心の中での存在をごまかせなくなってきています。

では何故そんなヒロインが、彼に興味を持ったかと言うと、自分と全く逆の違う方向を向いている存在だったから、逆にそれが素敵に見えた。

という設定なのです。自分で考えて、他人となるべく関わらず、自己完結型で、生きている主人公ですが、彼女から観ると、周囲に左右されない自分というものを持っていて気になる存在だった。

そして話してみたら、とても楽しかった。2人はお互いに自分に足りないものを見出して一緒に居る時間が楽しくてしょうがなくなっていきます。その表現は本当に巧みで、読んでいると、孤独な状態からの脱出体験を味わえるような快感を覚える人がいるのではないでしょうか。

人間は人との関係の中でしか自分を見出せない部分と自分で一人になってよくよく考えることでしか見出せない成長できない部分がきっと両方あって、どっちも大切で、それを補完できるような付き合いを見出して、それがとても居心地のよい関係だったこと。特に主人公にとっては、初めての、誰かといて、一人になりたいと思わないですむ居心地の良い付き合いだったこと。

またこれはお互いを恋人とも思ってなくて、恋愛ですらなく、この一度も友達がいなかった主人公が、ヒロインの彼女に心を開いて、必要とされていると感じさせるまでになり、唯一の必要とされる存在として、普通の恋人になるより嬉しかったという、特別な人間関係構築の話でもありました。

映画が小説とかなり違うらしいこと

独白形式が多く、場面も少なく、最後の40ページほどは、彼女がなくなった後に彼女の残した

共病文庫(ヒロインの日記、僕がこれを見たことから物語は始まる)

に関わる話なので、原作に忠実に映画化するのは難しかったのかと思われます。そのため、原作の約12年後あたりの話から、原作のヒロインとの過去を回想する形式で、パラレルワールドのように作られるようです。それと上の説明で、登場人物の名前を書きませんでしたが、主人公とヒロインの名前をずっと出さないことが、重要なテーマになっています。具体的な名前を出すことで2人の関係が固定すること、独自のユニークな価値が発生することすら、二人が鋭敏に避けようとしているということまで配慮した繊細な小説なのですが、映画では、いちいち、そのたびに、名前をかえると不自然に成って出来ないと思われます。

なんていったって、小説の中ではこんなに主人公はこんなに多くの呼ばれ方をしているのですから。それだけ繊細に呼び合って作るほどの繊細な関係なのです。

  • 【大人しい生徒】
  • 【地味なクラスメイト】
  • 【仲のいいクラスメイト】
  • 【根暗そうなクラスメイト】
  • 【仲良し】
  • 【親友と不可解な関係のクラスメイト】
  • 【噂されてるクラスメイト】
  • 【ひどいクラスメイト】
  • 【目立たないクラスメイト】
  • 【許せない相手】
  • 【ひどいクラスメイト】
  • 【?????】

原作の時点の話と12年後の話をどう組あわせた話になるのかわかりませんが、原作とはかなり違う映画になるのだと思われます。

配役

山内桜良(浜辺美波)

僕(北村匠海(原作の年齢)

僕(小栗旬(原作12年後の僕))

彼女の親友・恭子(12年後 北川景子)

 

おまけ 一人称タイプ小説の有名なもの

星の王子様は君の膵臓の中でも大切なやり取りに使われています。一人称タイプの小説の名作もたくさんあるのですが、ここでは思いついたものをいくつか上げます。

三島由紀夫『金閣寺』

ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』

レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』

A・サン・テグジュペリ『星の王子様』

A・カミュ『異邦人』

M・ユルスナール『ハドリアヌス帝の回想』

M・プルースト『失われた時を求めて』

辻邦生『西行花伝』『樹の声 海の声』

 

著者は『陽だまりの彼女』を薦めている。

小説の雰囲気が似ていて、著者の住野さんもこの小説好きで純文学にこだわらず感動できるものを読もうとtwitterで発言されています。

もし、この著者が純文学系の小説をあまり読まずに、これだけ、ビビッドな文章を紡ぎ出せているのなら、そのほうが私は驚きます。

上であげた『春一番が吹くまで』川西蘭(現在出家して僧侶)1979年を思い出させるほどで、この小説は気難しい文芸評論家にすら、日本にもレイモン・ラディゲ(フランスの詩人、小説家)を思わせるほどの作家がでてきたかと言わしめるほどでした。美しく、無駄のない文章をかく三島由紀夫が若い頃から嫉妬していた作家です。

レイモン・ラディゲ『肉体の悪魔』

代表作で、これだけ天才的な文章書いてたら、早死にしてもしょうがないのかなと思わせるほどでした。一人称の小説の最高峰はこれかもしれません。

 

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