書評:すぐ死ぬんだから 老化対策の疑似体験 内館牧子著
この小説は、ストーリーが面白くて、あらすじを書いたら、これから読む人の楽しみを奪ってしまう。
ストーリーに触れずに、書評を書くのも難しいが、試してみる。
本来は教訓を教える本でもないのだろうけど、本当に参考になり長生きしたなら多くの人が身につまされることを書いているので、その説明を試みる。
Contents
主人公は78歳のハナ
歳より10歳は若く見えるファッションセンスも良い女性なのだが、家業の酒屋を頑張り、身なりに気を付けない生活をしていたところ、60代後半で70代に間違えられたことから一念発起して、見た目を若返らせることに邁進して見かけが若返ったという設定。
間抜けな女ほど、
中身が大切 とか 自然が一番
とか言いたがると 切って捨てるように主人公は言う。
これは、歳をとるほど真実なのだと思う。若い時ほど身なりを気にしなくても、若さでカッコよく、美しく、いられる。
年を取って身なりを気にしないと底抜けになるのだろう。そして実際その程度の注意を払えないと、実際に心の張りを失っていき、実際に老いを加速させてしまうであろうことをこの小説は感じさせてくれた。
ただし、この主人公の本当の若さは、気概と精神の若さだろうと、独白形式で語られる心のささやき、実際のセリフから、うかがえた。
さらに考えれば、実は年をとってもボケない限り、意識は若い時とそう変わらないのではないか? ただ体は確実に老いて、思うように動かせなくなってくる。もう衰えていくことへの達観が必要で、それなしには、落ち込んでしょうがないのではないだろうとか、色々なことを読みながら考えさせられる。
この本はなぜ特別面白いのか?
おそらくこのままドラマか映画にしても、とても面白いであろう、ストーリーの面白さがある。
主人公の気持ち自体が、強気、弱気、あきらめ、やる気、それぞれ、そりゃあそうなるよなあという出来ことがある。
また、この高齢化社会で、老いていくとどんな生活になり、どんな気持ちになるのを想像させてくれるものがいくつもあった。
例えば、ファッションに気を配ることの大切さ、見栄を張るというと悪いイメージもあるが、見栄を張ることで、心の張りも保てているであろうこと、
逆に言えば、見栄を張る意欲すらなくなったら、そのまま老いていってしまうのではないかということ。
『平気で生きている』
この小説の中で、この言葉とそれが書かれた掛け軸が一番大切な登場物となっている。
元々はこの言葉から来ている
「悟りとは、如何なる場合にも平気で生きている事である」(正岡子規)
この言葉を何度も思い浮かべることで、商売を夫婦で乗り越えてきた。ところがとんでもない秘密がわかった。
その時の主人公の気持ちが面白い。興味深い、人間は、善意や悲しみだけでは、生きる気力を失ってしまうらしい。
憎しみ、怒り、野心、そういうものを、死ぬまで持っていた方が、元気に生きられる、そしてそれを乗り越えた先に、
仏様の様な心になれれば、さらに良い感じで生きられる、そんな主人公の心境の変化が小説の流れとともにみてとれた。
「相手の人生に対して他人は何の責任も義務もないの。基本的に無頓着なんですよ」
長年連れ添ってベターハーフであったハズの夫婦ですら、根底にこれがあったことが語られる。
エンターテイメントとしても貴重な教訓をえるためとしても、両方ともレベルの高い小説でした。
これは口コミで噂拡がって売り上げがどんどん伸びるわけです。
どんなに老いても、明日も生きているなら、今日は明日より一日若い。
若い時より元気がなくても、そこであきらめたり、なげやりになっても、何もいいことはない、
今日が、自分にとって実際に
生きることのできる一番若い日だと心に決めて、
昨日より動かなくなった体であろうが、生きている限り、何かをし続けるのが、生きているってことなのでしょうね。
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