四月になれば彼女は(川村元気)書評 あらすじ 感想 恋愛論と死生観が濃い小説
”四月になれば彼女に”は5種類ある。
1.サイモン&ガーファンクルの名曲
”April Come She Will–Simon & Garfunkel” 恋愛の始まりから終わりまでを4月から9月までの6ヶ月で表現した哀切のある歌です。この歌が良すぎてこの曲名を使った小説や漫画が複数出てきています。
この歌詞の訳詩「四月になれば彼女は」
が絶妙の表現だったので、それを使いたい人が多く出たということだとも思われます。 ”She will come April” を敢えて倒置法で表現していますから、そのままの表現なら 「彼女は四月に来るだろう」となるのかもしれませんが、その後の6ヶ月間の出来事もすら、どうなるんだろうと漠然と想像させる絶妙の訳がこのようになっているようにとれます。
2.四月になれば彼女は (集英社文庫) | 川上 健一
高校卒業時のわずか24時間で青春時代を読者の心に蘇らせる小説です。『翼はいつまでも』が代表作の作家です。歳とってから中高生時代の気持を鮮烈に表現できる作家です。
3.四月になれば彼女は (文藝春秋) 川村元気– 2016/11/4
この記事では3.の川村元気の小説について書きます。1.のサイモン&ガーファンクルをの歌を題材に6ヶ月を12ヶ月まで伸ばして話が展開していく小説です。1.と3.は音楽と小説なのに、悲しげな余韻が似てます。
4.映画化漫画 海街diaryの6巻の中の一話のタイトル
人気漫画で映画化されそれも話題になったので、これで記憶している人も多いです。
5.四月になれば彼女は (CARAMEL LIBRARY) 単行本 – 2002/5
成井 豊 (著), 真柴 あずき (著)
演劇集団キャラメルボックスが上演
著者 川村元気の死生観、恋愛感が強く出ている
川村元気は映画を既に20本以上プロデュースしています。今年だけでも既にこの3作品をリリース
君の名は。(2016年)- 企画・プロデュース
怒り(2016年)- 企画・プロデュース
何者(2016年)- 企画・プロデュース
小説はこの作品が3作目で2年ごとに出してきてます。
世界から猫が消えたなら(マガジンハウス、2012年,映画化2016年本人はプロデュースしてない。)
億男(マガジンハウス、2014年)
四月になれば彼女は(文藝春秋、2016年)
これだけ活躍している方ですが、3本の小説とも、読んでいると心が苦しむのについつい最後まで読んでしまうという内容でした。
3本の小説に共通した内容と流れがあります。
大切なものは失ってからしか気がつけない。
ということ、それがとても悲しくて、つらいことだということです。
猫が消えたならは、限られた命を一日伸ばすことのために大切なものを一つ差し出して失う、悪魔との取引で、
億男では、お金を失うことをきっかけに、家族を失うことで、
4月になればでは、失った恋人と失いかけている婚約者のことで、
あらすじ
主人公は精神科医で婚約者は獣医、タワーマンションに住み、優雅な暮らしをしていますが、2人はそれほど心弾む生活をしていません。
そこに主人公が初めて付き合った学生時代の元恋人から手紙が届きます。最初はウユニ湖から、その後も世界の各地の有名な観光地から。
婚約者の妹からの誘惑で心が乱されます。その妹夫婦も自分達も長いことセックスレスなので、外からの刺激に敏感になっています。
同僚の美人精神科医がどうして恋愛できなくなったかも主人公にだけ告白されます。
元恋人が何故急に手紙をよこすようなったのか、彼との思い出が何より大切に思えて、伝えたいことがでてきたこと、その理由が小説の最後のほうであかされます。
その理由を知った主人公は、自分のもとを去った婚約者を今まで思っていた以上に大切な人だったと漸く理解します。
感想
内容が重く響き過ぎて、婚約者の妹と主人公のメロドラマのような展開がなければ、途中で読めなくなるところでした。
おそらく著者は周囲の人に2016年の恋愛事情について、かなり詳しく聴くか、資料を調べてこれを書いたのではないかと思います。
現代は、心が豊かになったわけでもないのに、ともかく恋愛しない、出来ない、人が増えています。(最後にその資料へのリンクを張ります)
ところが、その状況はさらに心に満たされないものを広げてしまいます。何故そうなってしまうのかは、わからないのままにです。
この小説では、自分が初めて付き合った元恋人からの手紙を手がかりに、それをつなぎとめるための努力をしなかったけど、やっぱりその恋愛が、
そのとき心を確かに通わしていた自分達の時間が、人生で特に大切な時間だったと感じはじめます。
失ってからしか気がつけないことがなんともやりきれないほど悲しいことで、これは多くの人に同様の経験があるハズです。
そして、主人公はそれにより、今いる婚約者との時間を大切に出来ていたのかに気がついてきたのだと思うのです。
失ってからしか気がつけない大切なものを、過去の失われた恋人からの手紙で思い出させてもらい、今の婚約者を失いかけた大切なものだと気がつかせてもらう。
彼の小説は 恋愛論、死生観、人生哲学が濃厚に反映された言葉が多く、小説の形でそれを述べているかのような印象もうけました。
小説の中に考えさせられる言葉が散りばめられています。
「生きているという実感は死に近づくことによってハッキリとしてくる。この絶対的な矛盾が日常のなかでカタチになったのが恋の正体だとボクは思う。人間は恋愛感情のなかで束の間、いま生きていると感じることができる」
ということは、恋愛する人が急減している現代は、生きていることを感じることを出来ない人が急増していることになります。
死を意識すると、今生きていることの有限性を意識することで、生きることをより実感できる。 恋愛も、それがいずれ必ず終わること、それが生きていることそのものと同じくらい大切と意識することで、生きることと同様の絶対的な矛盾がカタチになっていると言いたかったのかなとも思いました。
「でも僕、思うんです。人は誰のことも愛せないと気づいたときに、孤独になるんだと思う。それって自分を愛していないってことだから」
鶏が先か卵が先かとは思いますが、感情は一番深いところでは対象を選べないので、自分が先か誰かをが先かわかりませんが愛せないとはそういうことなのでしょう。
「わたしは、わたしに会いたかった。あなたのことが好きだった頃のわたしに。
あのまっすぐな気持でいられた頃の自分にあいたくて、手紙を書いていたのです。
わたしは愛したときに、はじめて愛された。」
かなり真剣な恋愛論と死生観が盛り込まれた小説で、私は圧倒されてしまいました。その状況からどうすればいいのか見いだせなくて。それもおそらく現代、この状況に陥っている人が多いであろうことを、正確に言い当てているように思えて。
わからないながらも、せめて今出来ることとして、この小説は、今自分のそばにいてくれる人の大切さに気がつこう、簡単に離さないようにしようと語りかけているようにも思いました。
追記-2016/11/23
大切なものを失ってからしか、その大切さに気づけないことって本当に多いです。大切なものが今あるときは、その大切さに十分には気がつけないから、その大切さに見合った喜びと幸せを感じられず、失ってから、その大切さを失ったことに見合った痛みは感じてしまう。これでは、やり切れません。どうしたらいいのでしょう。
今、ここで、大切なものを少しでもきちんと感じられるようにすること、それが難しくても、なるべくそうすること、そして、もし、今、大切なものを失って、悲しんでいるのなら、その悲しさをよく覚えた上で、また大切なものを取り戻して、そのときこそ、その大切さを精一杯感じられるようにすること。そうありたいです。
川村元気は
昔のイタリアの映画 「道」 フェデリコ・フェリーニ
の大ファンで、何度もこの映画を見返しているそうです。この映画こそ、お金、命、恋愛(というより切ない愛情が近いかも)を失って、失ってから、主人公のあらくれ男が涙して、その大切さに気がつくという、彼の3作の小説をまとめて表現したような映画です。
きっと大切なものって、自分のそばにあるときは、それが長くあるほど、長くいてくれるほど、いつの間にか当然のように感じてしまうのでしょう。空気のように、でもなくなると、窒息するように苦しんでしまう。それは往々にして、自分に暖かい感情を、無意識にあたえてくれていたもの、人やペットであったりして、なくなると、自分の中のその暖かい感情を失ってしまっていくことに、うろたえてしまう。悲しいことです。
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現代の日本の恋愛状況->恋愛不全症候群:結婚・恋愛したいけどできない
余談、”君の名は。” があれだけヒットしたのは、川村元気、新海誠、野田洋次郎(RADWIMPS) それぞれが、元々もっている、深過ぎて、重すぎる ほどの表現したいものを、協力してわかりやすく軽めに表現してくれたと言うこともあるのかなと思いました。
君の名は。時系列記事->君の名は。(ヒット要因)(辛口評価)
川村元気の前作『億男』の記事->お金と幸せの答えを追求した小説
新海誠と星野源の推薦文の不思議さ
新海誠推薦文
「音もなく空気が抜けるように、気づけば「恋」が人生から消えている。 そんな時僕らはどうすべきか? 夢中でページをめくった」
「君の名は。』 川上元気プロデューサー 新海誠監督
の付き合いがある新海さんから推薦文をもらったのということなのでしょうが、その文面が、なにかプロのコピーライターが書いたような雰囲気です。どこか自然な言葉でないような気がしました。
星野源推薦文
「イノセントかつグロテスクで、ずっと愛を探している。 川村元気そのもののような小説でした」
この推薦文みてまず。星野源はそんなに川村元気にあまりに詳しいというか、決め付けるような表現使うのかと、文面の雰囲気とあわせてこれも不自然に感じました。
逃げるは恥だが役に立つ の津崎さんのイメージが強すぎる生かもしれませんが。
->逃げるは恥だが役に立つ:あらすじ 感想 恋 ハグ キス未経験者応援ダンス
聖☆おにいさん(アニメ映画)で川村元気と星野源(ブッダの声役)で一緒に仕事
でもそれ以外にはみつからなかったので、今大人気の星野源の推薦文の効果高めるためにこんな表現になっているのかもしれません。
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